「睡眠不足は太る」という話を聞いたことはありますか?太る原因としては食べ過ぎ、運動不足などがありますが、実は睡眠不足も太る原因の一つ。「むしろ、睡眠不足の方が活動量が増えて痩せるのでは?」と思われる方もいるかもしれませんが、実はその逆なのです。
この記事では、睡眠と肥満の関係をご紹介するとともに、睡眠不足による肥満を解消するための対策について食事面からもご紹介します。この機会に睡眠と肥満の関係について、理解を深めましょう。
睡眠と肥満の関係性とは?
睡眠と肥満の関係は都市伝説などではなく、実際にある研究により科学的に証明されています。
2002年にサンディエゴ大学が行った約100万人を対象とした研究結果では、睡眠時間が短くなると食欲が亢進し、肥満傾向になることが分かっています※1。研究結果から、短時間睡眠の人や10時間以上寝る女性は、BMI値(肥満を表す体格指数、高ければ肥満傾向)が高く、適正な時間(7〜8時間)の睡眠の人はBMI値が低いことが分かっています。また、この傾向は男性よりも女性の方が顕著であることも報告されています。(※1:出典『ビジネスに活かす睡眠資格 スリーププランナー<西野精治 著>』)
さらにBMI値だけではなく、皮下脂肪組織や内臓脂肪組織においても同様に睡眠不足による影響があり、肥満に関連することが分かっています。睡眠不足は体重だけではなく、脂肪もつきやすくなる可能性があるのです。
その他にも、睡眠時間が短いほど食欲を抑制するホルモンであるレプチンが減り、食欲を亢進させるホルモンであるグレリンが増加することも研究から分かっています。つまり、睡眠不足によりレプチンが減少、グレリンが増加して食欲が増すことで摂食量が増え、肥満につながると考えられます。
睡眠不足による炎症と肥満の関係
肥満は全身の軽度な炎症を伴うと言われていますが、実はこの軽度な炎症と睡眠不足も関係しています。一般的に炎症というと、虫刺されや怪我などで皮膚に腫れや赤みが起きるときに発生するイメージがあるかと思いますが、肥満にも炎症を伴います。肥満によって脂肪細胞が大きくなり過ぎると脂肪細胞が死んで、これを貪食するマクロファージなど免疫細胞が脂肪組織に集まってきて、炎症を引き起こします。この炎症が全身に波及して、生活習慣病にもつながると言われています。
睡眠不足によって体内に軽度の炎症が起こると、サイトカインと呼ばれる物質が脂肪細胞から分泌されます。サイトカインとは、細胞間での情報伝達を担う生理活性物質のことで、免疫細胞の活性化や働きの抑制を行い、免疫機能のバランスを保つために重要な働きをしています。このサイトカインによって細胞周囲に炎症が広がり、全身性の炎症や代謝メカニズムの乱れを引き起こし、結果的に肥満などの生活習慣病につながると考えられています。
肥満だけじゃない睡眠負債の影響とは?
以上のように、睡眠不足は肥満の要因の一つとして軽視できない問題です。さらに、睡眠不足は他にも、様々な健康トラブルにも繋がります。
睡眠不足が慢性的に積み重なった状態を睡眠負債と呼びます。睡眠負債は放っておくと、高血圧や糖尿病、脂質代謝異常などの生活習慣病のリスクを上昇させます。そして、肥満もこれらの生活習慣病のリスクを上げてしまう可能性も。
つまり、睡眠不足は、肥満のリスクも生活習慣病のリスクも相乗的に上げてしまう可能性があるのです。
睡眠と食事の関係性とは?
では、睡眠不足と肥満の両方に悩んでいる場合、どのような対策が考えられるでしょうか。まず、第一にこの両方に相互的に関係しているものといえば、「食事」です。食事に気をつけることで睡眠不足、さらには肥満の改善にもつながります。
規則正しく食事を摂り、バランスの良い食事をとることが基本ですが、とくに睡眠不足や肥満の解消を目的にする場合、次のような方法を取り入れるのがおすすめです。
睡眠にも肥満にも良い食事
睡眠にも肥満改善にも良い食事は、栄養バランスが整っている健康的な食事です。野菜や果物を中心としたバランスの良い食事で、1日に必要なビタミンや栄養素を摂取しましょう。
日本人であれば和食が基本ですが、地中海式食事法も参考にして少し取り入れるのがおすすめです。地中海式食事法は不眠になりにくいという研究結果があるほどです。地中海式食事で欠かせない次のような食品を積極的に取り入れると良いでしょう。
- 野菜
- 果物
- ナッツ
- 種子
- 豆類
- 全粒粉
- 魚介類
- 鶏肉
- ヨーグルト
- ハーブ
- スパイス
- オリーブオイル
これらの食品には、多価不飽和脂肪酸が豊富に含まれており、睡眠だけではなく記憶能力などに対する良好な研究結果も報告されています。
豆類や魚介、鶏肉などはセロトニンやメラトニンの前駆体であるトリプトファンが豊富に含まれ、全粒粉にはトリプトファンが脳内に供給されるために必要な複合炭水化物が含まれているため、睡眠に良いとされています。
飽和脂肪酸が多く、食物繊維が少ない食事では睡眠が浅くなり、回復力が低下するという研究結果もあります。そのためナッツや魚介類、オリーブオイルに含まれる不飽和脂肪酸や、野菜などに含まれる食物繊維を摂取するのがおすすめです。
また、腸内環境も睡眠に関係するため、食物繊維やヨーグルトなどによって腸内環境を整えることも睡眠改善に繋がります。肥満の解消にも食物繊維は効果があるため、1日の必要摂取量を十分に取り入れると良いでしょう。
睡眠に悪影響する食事に要注意
ブドウ糖、加糖、ショ糖、乳糖などの糖類
糖分を過剰に摂取すると夜中に目が覚めやすくなる可能性があると言われています。これは血糖値の急降下に対応するために血糖値を上げるアドレナリンやコルチゾールなどのホルモンが分泌されるためです。これらのホルモンは交感神経を活性化させ、中途覚醒などを引き起こす原因となります。ただし、過度な糖質制限も逆効果となるので、適度な量を摂ることが大切です。
脂肪分・飽和脂肪酸の摂り過ぎ、寝る前の摂取
就寝前に消化の悪いものや脂質の多い食品を摂取すると、逆流性食道炎などを引き起こし、睡眠をさまたげる可能性もあります。胃もたれによって寝つきが悪くなることも。夕食は睡眠の2時間前までに済ませ、夜は脂っこいものを摂り過ぎないことが大切です。
以上のように、睡眠の質には食事の質が大きく関係しています。
睡眠の質を改善したい場合には、日常的に食べているものを見直すことも大切です。
睡眠を改善する栄養素を摂取しよう!
さらにここではもう少し踏み込んで栄養素ごとに睡眠と関わる成分を見ていきましょう。
バランスを心がけることが基本のため、必要以上に栄養素ばかり気にしすぎる必要はありませんが、次に挙げる栄養素を積極的に取り入れると睡眠改善につながります。
- トリプトファン
- グリシン
- GABA
①トリプトファン
必須アミノ酸であるトリプトファンは、精神の安定や睡眠に関わるセロトニンの原料となる栄養素です。精神の安定や脳の働きを活発にしてくれる作用があるセロトニンは、さらに、睡眠を司るメラトニンの元にもなります。そのため、トリプトファンは睡眠不足の人にはおすすめの栄養素です。
トリプトファンは、主に乳製品や大豆製品、肉や魚から摂取できます。ただし、食品に含まれる他のアミノ酸と競合すると吸収されにくくなるため、牛乳や鶏肉などの動物性タンパク質を多く含む食品を同時に摂り過ぎないことが大切です。
逆にトリプトファンの吸収を促進させる方法として、炭水化物と組み合わせて食べるという方法があります。炭水化物により血糖が上昇し、競合する必須アミノ酸が筋肉に使われるため、トリプトファンと競合しなくなるため、脳に届きやすくなります。
おすすめは穀物、豆類、野菜から摂取できる食物繊維を含んだ複合炭水化物です。炭水化物でも血糖値の上昇が比較的穏やかで、睡眠の妨げにもなりにくいのでおすすめです。
トリプトファンを多く含む食品
- 卵
- かずのこ
- 大豆製品(豆腐、納豆、味噌など)
- 乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズなど)
- かつお節
- 煮干し
- バナナ
②グリシン
グリシンは非必須アミノ酸の一種で、熱放散を促して深部の体温を下げる働きがあります。睡眠導入剤のような強い作用があるわけではありませんが、穏やかに作用するためサプリメントなどにも応用されています。
体温調節機能の衰えた高齢者や入眠時に緊張感が強く体温が下がりにくくなっている人は、グリシンの摂取で睡眠が改善される可能性があります。ストレスや不安によって不眠になっている人にも適しています。
■グリシンを含む食品
- エビ
- ホタテイカ
- カニ
- カジキマグロ など
- ホウレンソウ
- 枝豆
- グリーンピース
- ブロッコリー
- ニンニク
③GABA
GABAは、γ(ガンマ)-アミノ酪酸というアミノ酸の一種で、心身のリラックス、脳の興奮を鎮める、ストレスを和らげるなどの働きがある成分です。寝る前にGABAを摂取することで、リラックスを促して自然な入眠を得られると言われています。GABAは次のような食品に多く含まれていますが、サプリメントなどから効率よく取り入れるのもおすすめです。
■GABAを含む食品
- トマト
- ケール
- パプリカ
- メロン、ブドウ、バナナ
肥満を防ぐためにまずは良い睡眠から
睡眠不足は肥満に繋がるばかりでなく、生活習慣病にかかるリスクも増えるため、早めに対処することが大切です。基本的な生活習慣を見直しながら、食事の内容も意識することで、睡眠の問題だけでなく、肥満の解消にも取り組んでいきましょう。
ただし、精神的なトラブル等を抱えた不眠の場合にはセルフケアでは改善できない場合もあります。医師など専門家に相談して、適切に対処することが大切です。ぜひ、睡眠に悩んでいる方は、この機会に日々の生活や対策について見直してみてください。